「抗カビ剤と歯周病4」


2012年1月追記:
この文章は2002年4月に書かれたもので、現在の見解とは一部異なっています。


日本歯周病学会が見解を発表した後も、多数の御質問をいただいています。以下は最新の僕の見解ですが、以前より少々突っ込んだ内容になっています。そのため、少々難しい用語や言い回しが増えてしまったことをお許し下さい。


はじめに、現在、抗カビ剤を実際に日常の治療に使用している先生は、御自分の責任の範囲で使用しているのであって、それ自体にとやかく意見する気はありません。
ただ僕は、やはり今のところは日常臨床で使う気はありません。
理由は、歯周病学会の見解でも述べているところの、科学的根拠に基づいていない点、プラス、現行の治療法で充分治るではないか、という点、その2点につきます。

ところで一連の「抗カビ剤騒動」には、実はもっと根深い問題が隠れていると思うのです。それは、朝日新聞をはじめとしたメディア(野次馬的な3流なものも含む)の表現のニュアンスが、「歯周病は今までの治療では治らないものと思われていたが、抗カビ剤を使うと、うがいをするだけで治る」のような感じであることです。実際のところ、記事を読んだだけの一般の患者さんの多くは「今までの治療では治らないんでしょ?」と、とらえています。
個人的には以下のように考えています。


1)従来通りの治療法をしっかりと行なえば、中等度までの歯周炎の殆どは改善する。

2)ただし、重度のものになると、こちらの期待通りには改善しないものもある。
しかし、SPTなどメインテナンスを行なえば、多くのケースで抜歯することなく機能させることができる。

3)現行の治療法を施しても効果がないか、あっても徐々に進行してしまうのは、若年性や急速進行性、または全身疾患に起因するなど、一部の特殊な歯周炎のみである。

そうです。現行の治療法は「きちんと行なえば」極めて有効な方法であり、しかも科学的にも裏づけがある方法なのです。


ところで、もし歯科医師の中に「現行の治療法では歯周炎は治らないから、新しい治療法を待望している」と言う人がいたら、その人は様々な理由により、ちゃんとした本来の歯周治療をしたくても出来ない(能力がないのではない)人なのだと思います。
歯周治療は一部の外科処置を除いてテクニック的には簡単です。また、症例の多くは外科処置が必要になることもありません。歯周炎の診断はかなり難しいですが、これこそ歯周治療をしたことがない人には絶対できないもので、反対に、普段からちゃんとした歯周治療をしている人であれば、診断力は後からついてくると思います。

現行の歯周治療が、日本できちんと普及していない理由は、おおむね以下のようなことだと思います。


1)歯科医院で我慢して口を開いていれば、あとは歯科医師が勝手に治してくれる、というものではなく、患者さんの家庭でのブラッシングが最も重要である。

2)治療期間が長くかかり、あと何回通えば終了、という約束ができない。

3)(あくまで他の歯科治療と比較してですが)口の中の状態が改善したことを、患者さんが実感しにくい。

4)多くの患者さんは、ある年令になれば、歯槽膿漏で歯を抜かなければならないのは仕方のないことだ、と思っている(治そうという気持ちがない)。

5)歯科医院にとって、経済的な見返りが少ない。


裏を返せば、ムシ歯の治療や、入れ歯の治療は、全くこの逆であるとも言えるわけです。

実は、世の歯科医師の多くは「現行の治療法でもちゃんとやれば歯周炎が治ることは知っている」人達なのだと思います。ただ、「外科処置(手術)は患者さんが嫌がるし、外科処置の必要性を説明している時間がない」とか、「ブラッシング指導する時間がないし、衛生士を1人とられるし、ユニットも占拠される」とか、「いくらやっても経済的な見返りがない」とか、「患者さんからは、早く治療を終わってほしいと言われる」などの様々な理由から、本来の歯周治療を普段からちゃんとやりたくても、実際にやるのは難しいというだけなのだと思います。現在の日本の保険制度では歯周治療はまじめにやればやるほど割に合わなくなってきます。「もしうがいだけで治る治療法があれば是非取り入れたい」と思うのは当然でしょう。
そうです。歯周病が「治らない」のは現行の治療法が悪いのではなく、国や歯医者や患者さんの様々な事情で、ちゃんとした(本来の)治療ができていないだけなのです。
、、、と思います。

抗カビ剤による歯周治療は、不治の病で手の打ちようのない患者さんが、ワラをも掴む気持ちですがる無認可の治療法とは違うのです。少々面倒臭くてすぐには治らないかもしれませんが、きちんと治療をすれば安全で確実に効果のある治療法が、全世界規模で確立されているのです。新しい治療法は、もっと時間をかけて安全性や効果の有無を、しっかりと確認する必要があるのではないでしょうか。



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