子供に暴力?? その3


さて、まず基本的な重要事項の確認です。

子供の患者さんを「こらしめる目的」での暴力は、絶対に許されない行為だということ、これは大前提です。

ムシ歯には早期の治療が必要なほど進行しているものと、まだそこまでは進行していないものがあります。
ムシ歯の進行度によっては、子供がどんなに嫌がっても、無理矢理治療しなくてはいけない場合があるということです。
(もちろん、親が「この後に激痛が襲っても構わないから今は治療しないでくれ」と希望すれば治療は行われませんが)

子供は3歳になるまで、歯医者は「無条件に嫌なもの」です。
また、知らない場所でお母さんと離れることを極度に怖がります。
ですから歯科検診の時も、お母さんと一緒のことがほとんどです。
この時期に嬉々として口を開ける子は極めて稀です。
ほとんど全ての子が歯科治療を嫌がります。
歯科治療の必要性を説明しても理解することはまだ出来ません。
この時期に削ったり麻酔をしたりすることは非常に困難です。
まず間違いなく泣きます。そして暴れます。
泣くのは何とかなるのですが、麻酔の注射をしている時、削っている時に暴れることは物凄く危険です。
特に手で治療中の口内の器具を払いのけようとする行為は、場合によっては命に関わる危険すらあります。
よって、この時期に歯科治療をするためには、どうしても手足を押さえつけたりする必要があるのです。
これは「ある意味で暴力」です。言ってみれば「治療上必要な暴力」でしょうか。
しかし、これをやると子供の心には当然トラウマとなって残ります。歯医者をますます大嫌いになります。
もちろん、その後の歯科治療に協力的になる時期が大幅に遅れる原因になります。
出来ることならばこの時期の治療は避けるべきである、、、これは論を待ちません。

一番良いのは一生ムシ歯を作らないことですが、現実的には難しいでしょう。
そこで、少なくとも3歳になるまではムシ歯を作らないこと。これが大切です。
不幸にして3歳までにムシ歯になってしまった場合ですが、早期に治療が必要なほどに進行していなければ、3歳になるまで待つ方が得策です。

3歳になると、親が驚くほど治療に協力的になってくるものです。
「嫌な事でも我慢をしなくてはいけないことがある」「今我慢をすれば、後で良い事がある」「今我慢をしないと後でもっと悪い事になる」ということを理解してゆく時期なのです。
また、1人で治療を受けさせ始めるべき時期でもあります。これは母親が待合室に残ることで「お母さんも歯科医師やスタッフを信頼している」のだというこ とを暗に子供に伝え、理解させる必要があるからです。
これは言葉でどのようにお子さんを説得しても限界があります。お母様が身をもって体現していただくことに勝ることはないのです。

そのタイミングですが、親と離れて初めて1人で診療室に入るということは、子供にとっては大イベントですから「3歳になった」こと(誕生日)をきっかけにするのは良いでしょう。
もちろん個人差がありますから、どの子も3歳になった途端に1人で治療を受けれるわけではありません。
泣いて嫌がるだけで結局何も出来ずに帰った、、、ということも珍しくありませんが、これは決して無駄ではないのです。
最初のうちは1人で診療室に入って歯科医師やスタッフとお話しして帰ってくるだけでも十分です。ましてや口を開いて診せてくれたら大したものです、思い切り褒めてあげましょう。
そうするうちに、ほとんどの子が治療に対して協力的になります。
一度、治療をさせてくれたらもう大丈夫。あとは極めて順調です。

今回のケースでは母子の分離を行ってはいるのですが、そこに大きな問題点があるのです。
ひとつは母親の担当医に対する不信感が残ったままであったこと。
この時期の子は、大人が想像するよりも遥かに敏感に親の言動からその雰囲気を察知します。
これでは母子分離を行っても子供が治療に協力的にはなりません。
2つ目は、押さえつけででも強行に早期に治療する必要があったのなら、3歳とはいえ母親を同席させるべきであったこと。
母子分離をして治療するときは「泣いていても暴れない」「動くと危ない、と叱ればそれを理解出来る」という前提が必要です。
もし叱る方法として頭を叩いたのであれば、それは歯科医師の大きな過ちですが。

この時期の母子分離は極めて重要で、子供の情動発育の観点からも必須のことと考えます。
しかし、今後は本件のようなトラブルも多発する可能性があります。
ということは、今後は3歳以上になってからも親が同席することが多くなるのでしょうか。
それでは母子分離はいつになるのでしょうか。それは中学生頃なのででしょうか。
親がいつまでも診療室内に同席するようになると、今度は間違いなく別の(例えば家庭内の)問題が浮上してくるでしょうけど、、、。

何年か先には、子供が治療されている映像を親が待合室でモニター越しに監視する、、、そんな世知辛いことが現実になるかもしれません。
そんなことが当たり前になった社会が子供を健全に育むとは到底考えられないのですが、これはもう仕方のないことかもしれません。
人間と人間が信頼しあうという社会は遥か昔の事になるのもそう遠いことではないのかもしれません。

歯科医師は今一度、自らを反省しつつ、子供達の健全な発育をサポートしていくような存在にならなくてはなりません。
子供の躾の仕方を(躾という言葉そのものが死語になりつつありますが)アドバイス出来るような存在にならなくてはいけないのではないでしょうか。
もちろん、その前に自らの「我が子」をしっかり躾けないといけませんけど。


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