歯周病治療が普及することの意義




平成23年度の歯科疾患実態調査によると、80歳で20本以上の歯を有する人の割合が38.3%だそうで、これはもちろん過去最高です。
前回の平成17年の24.1%から14.2%も増加しました。

では、この6年の間に歯科医療に何か大きな出来事があったかというと、そうではありません。
歯科医師会が8020運動を地道にやってきた努力の成果が遂に花開いた!というわけでもなさそうです。

これは、1990年代に60歳代の人達の歯の喪失を抑制出来たことの結果であることは間違いありません。
それまでは60歳代になると一挙に歯を喪失していたのですが、これが抑えられるようになった、と。
もっと突き詰めて言うと、90年代に我が国の歯周病治療に大きな進展があったということです。

私が歯科医師になって大学の歯周病学講座に勤務し始めたのが1990年です。
その当時、大学病院に歯周病の治療を受けに来る患者さんといえば「近くの開業医では残っている歯を全部抜くしかないと言われたのですが何とかなりませんか」という来院理由の人が少なくなかったんですね。
少なくなかったというよりも、かなり多かったと言った方が良いでしょう。
しかし、2001年に大学を退職する頃にはそういった来院理由の人は皆無に等しくなっておりました。
要するに、その10年の間に街の開業医さんでも普通に歯周病治療が行われるようになっていったわけです。

一部の医療機関でしか行われていなかったものが、広く一般的に行われるようになった10年間というのは大きな意味があります。
治療技術の進歩ももちろん大切ですが、基本的治療を実施する医療機関を拡大する方が、国民に対する恩恵が大きいことは言を俟ちません。
このことは、発展途上国における医療環境や、公的医療保険が一部を除いて存在しないアメリカの医療環境を見るにつけても明らかです。

そして我が国では、今後、より専門的な歯周病治療が一般開業医レベルで広く行われるようになるかもしれません。
「なるでしょう」ではなく「なるかもしれません」と書いたのは、もしかするとインプラントの普及によって「歯を残すよりサッサと抜いてインプラントにしましょう」という流れになる可能性が少なくない(個人的にはどうかと思いますけど)からです。

次の次あたりの歯科疾患実態調査が興味深いところですね。

(この文章は2012年06月21日に書いたものです)


20本以上の歯を有する者の割合の年次推移

残存している歯の数



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