歯科治療を受けると新型ウイルスに感染しやすい?




(この記事は2020年4月22日に書いたものです) 
TVのワイドショーや週刊誌などでは、意図的なのかどうかは分かりませんが、「歯科治療を受けると新型コロナウイルスに感染する可能性が高い」というイメージを拡散させて不安を煽っています。
たしかに、歯科医師や歯科衛生士が新型コロナウイルスに感染している確率が高ければ、歯科治療を受けた人が歯科医療従事者から「ヒト→ヒト感染」する確率も高くなると言えます。
番組では「歯科衛生士が叫ぶSOS」のようなカタチで取り上げて、「歯科医院で働いてるのですが、歯科衛生士や歯科医師は唾液を浴びてしまうので欧米では感染率1位だそうです。毎日の仕事が命がけです。助けてください。」とか「元歯科スタッフです。TVでも言っていましたが、歯医者さんや働いてるスタッフが感染していないか心配です。」のような感じで紹介されています。
番組で「歯科医師や歯科衛生士が新型コロナウイルスに最も感染しやすい」根拠としているのが、アメリカの新聞「ニューヨークタイムス」に掲載されたこのグラフです。


縦軸は直訳すると「疾患への曝露」、要するに「どのくらいの頻度で病人(感染者)と接するか」で、上にいけばいくほど頻度が高くなります。
横軸は「対象との距離がどれくらいなのか」で、右にいけばいくほど距離が近くなります。
歯科医師はまさに右上の端にプロットされていて「最も感染リスクが高い」職業のように見えます。

ちなみにニューヨークタイムスが掲載したこのグラフは「O*NET」というアメリカ労働省が管理する各職種ごとのデータベースから数値を引用しています。
要するにこのグラフに利用された数値は、新型コロナウイルスが発生する前から労働省が発表していたものなので、このグラフも、対象を新型コロナウイルス感染者に限定したものではなく、単純に「色々な感染症の病人」が対象になっているというわけです。
それは結核かもしれないし、肝炎かもしれない、、、AIDSかもしれないし、インフルエンザかもしれないし、もちろん歯周病だって感染症です。
そんなわけなので、仮に歯科医院を受診した人が全員、新型コロナウイルスの感染者だとしたら、それこそワイドショーの言う通り、歯科医院は最も新型コロナウイルスに感染するリスクの高い職場ということになります。

ところが実際はそんなことはありません、なぜならば、このグラフからは「歯科医院という職場に新型コロナウイルス感染者が患者としてやってくる確率」が除外されているからです。
このグラフでは、フライトアテンダント(CAさん)の感染リスクもかなり高くプロットされていますが、これに関しても、例えば感染爆発が起きた武漢からの帰国チャーター便と、同じ日のホノルルからの帰国便が、CAさんにとって「全く同じリスクの職場」であるわけがないですよね、、、新型コロナウイルス感染者が乗客として搭乗している確率は、武漢からのチャーター便の方が圧倒的に高いわけですから。
もちろん、単純に、空いている機内と、混んでいる機内とでは、CAさんが感染するリスクが異なるのはいうまでもありません。

同じように、内科医でも職場が呼吸器外来か消化器外来かで、新型コロナウイルス感染者が受診する確率は呼吸器外来が圧倒的に高いですから、職場としての感染リスクも異なるのはもちろんです。

グラフを使った説明は、視覚的にもインパクトが強いので、どうしても妙に納得してしまうんですね。(しかもそれがアメリカの新聞!、となればなおさら、、、)
でも、縦軸と横軸だけのグラフというのは、2つの要素でしか論じていない、、、要するに、それ以外の要素は無視しているわけですよ。
その辺をアタマの片隅に入れて眺める必要があるのです。

もちろん、だからと言って「歯科医療従事者の感染リスクは低い」となるわけではありません。
これぞまさに「正しく怖がる」必要があると思うものです。




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